この動産に注目! ― レアアース ―
年の終わりに近付き、スーパーなどでクリスマスケーキやおせち料理のパンフレットや、正月の飾り物が並べられるようになっており、年末の色合いは徐々に濃くなってきている。2020年は「新型コロナウイルス」という1つの言葉でほぼ終始する1年となってしまい、筆者を含めて多くの人々にとって忘れがたい1年となるだろう。2021年になれば、現在世界中で開発が急がれているワクチンもいよいよ実用化に向けて動き出すと思われ、これに伴って「新型コロナウイルス」を口にする回数も徐々に減っていくことを切に願う。
ところで、先月の大統領選で世界中から注目を集めた米国では9日、新型コロナウイルス感染による1日当たりの死者数が3000人を超えたことが伝えられている。こうした中、ファイザー(米)とビオンテック(独)が共同開発した新型コロナワクチンの緊急使用が12日にも承認され、13日か14日に接種が始められる見通しとなっている。ワクチンの接種による新型コロナウイルスの抑え込みが成功すれば、米国が景気回復に向けた動きが本格化し、しばらく続いた「米国第一」の通商政策もバイデン政権のもとで転換点を迎えると予想される。とりわけこれまで世界経済を揺さぶってきた中国との貿易摩擦の行方も再び注目されそうだ。
今回のテーマであるレアアースも米中の貿易交渉とは深く関係している動産となっている。中国では12月1日から、戦略物資や先端技術の輸出管理を厳しくする輸出管理法が施行されているが、中国の通信機器大手のファーウェイなどをリスト化して輸出を規制している米国への対抗がその背景にあるとされる。戦略物資のリストはまだ明らかにされていないが、レアアースが戦略物資として認定されることが懸念されている。もし、精密部品などに使われるレアアースが戦略物資の対象となれば、日本企業にも大きな影響が出る可能性がある。中国によるレアアースの生産は世界全体の約6割超を占め、特にジスプロシウムやテルビウムといった重希土類の産出が中国に集中し、中国への依存度が高い。日本では、10年前に中国によるレアアースの輸出規制強化を受け、レアアースの備蓄強化や、リサイクル技術、使用量を削減する技術の開発を進めており、その結果、中国からの調達比率は10年前の約9割から現在の約6割まで引き下げられている。ただ、上記のジスプロシウムなどのように資源分布の関係からどうしても中国に依存せざるを得ない種類が存在しているだけに、輸出管理法の施行に伴う中国政府の運用が警戒される。
中国の輸出管理法は米国との貿易摩擦を意識して施行されたもので、米国における新政権の誕生でいきなり同法に基づく何かしらの規制をかける可能性は低いと言われている。しかし、米国の対中政策が政権の交代でどこまで 変わるかがまだ未知数であり、今後米中両国の貿易争いが日本に飛び火しないか、静観するしかなさそうだ。
(孫記)