この動産に注目! ― パーム油 ―
今年の梅雨入り前に、雨量は平年並みとの予想もあったようだが、実際に入ってみると、活発な前線で大雨が続き、九州などの各地に大きな被害をもたらしている「災害級」の梅雨となっている。一方、新型コロナウイルス による感染も再び拡大し、東京では3桁の感染者増が続いている。テレビなどの報道では無症状の人を含めてPCR検査が増えたことによる影響との説明が繰り返されているが、だとしたら緊急事態宣言を解除する根拠となる感染者 数の減少は、単なる少ないPCR検査に基づく不確かなものにすぎないではないかという大きな疑問も残る。しかし、緊急事態宣言の解除で社会全体が再び動き出し、もう一度引き留めることは経済的に非常に難しいであることはだ れにとっても明らかである。残された道も新型コロナウイルスと隣り合う日々に慣れつつ、ワクチンや有効な治療薬を待つしかなさそうだ。
経済活動の再開に向けた動きは日本だけでなく、世界全体も同様である。新型コロナウイルスによる影響で引き締められた消費は回復しはじめ、一時期下落していた生産原料などの価格が上昇に転じるケースも増えてきている。 今回のテーマであるパーム油もその中の1つとして挙げられる。パーム油は加工食品の揚げ油などの食品用途をはじめ、石鹸やシャンプー類に使用される原料などの工業用途まで幅広い分野で使われている。日本国内のパーム油 需要は基本的に輸入によって賄われており、主な輸入先はインドネシアやマレーシア(この2ヵ国のパーム油輸出量は世界全体の約9割を占める)などとなっている。GLOBEX(CMEが運営する電子取引システム)上のマレーシア産 パーム油先物の価格(7月物)は、7月9日時点で1トンあたり557.75ドルと、新型コロナウイルスの影響で安値を付けた5月上旬ごろの約455ドルから2割以上上がっている。
新型コロナウイルスの感染拡大によるパーム油需要への影響はピークアウトする中、輸入割合で世界の上位を占めるインドや中国からの輸入は改善しているほか、主要産地のマレーシアでは在庫水準が予想外に減少したことも先物価格を押し上げる要因となっているようだ。足元では国際需要の回復が見込まれる一方、生産地では生産者が価格を維持するために生産調整を行っており、今後の生産量は前年比で減少することも予想されている。日本でも、経済活動の再開で外食関連や食品加工の需要が増加しており、パーム油の国際価格の上昇は国内価格にも波及すると思われ、今後の動向が注目される。
パーム油については、摂取しすぎると体に悪いとの見方があったり、その生産が森林破壊につながるとの指摘があったりして、意外とマイナスのイメージとみられることが少なくない。しかし、石鹸にも使われるパーム油、この頃は非常にお世話になっていることに違いがない。新型コロナウイルスから逃げ惑う日々が続く中、しばらく感謝の気持ちをもってパーム油と接したほうがよさそうだ。
(孫記)