コロナ・ショック
昨年12月15日に予定されていた米国の中国に対する追加関税が延期されたことで米中貿易戦争も少しだけ落ち着きを取り戻し、世界経済もとりあえず一安心かと思った矢先に新型コロナウイルスが拡大しています。
感染者や亡くなる方の数は日々増加の一途をたどっており、1月31日時点での感染者が9,692人近くに達し死亡者も204人となっているとの報道がありました。
当初は野生動物が感染源とみられていましたが、その後人から人への感染も確認されており特効薬やワクチンがないため世界的な不安が高まっています。春節を迎えた中国では発生の中心地とされる湖北省武漢だけでなく団体旅行の全面的な禁止を行い移動の制限を行うなどの対策を取っています。日本企業から現地に派遣されている社員のチャーター便による緊急帰国も始まっていますが、目に見えないウイルスであり感染力や潜伏期間も判明していないため予防や感染拡大が難しいようです。
これまで知られているコロナウイルスは6種類であり、ヒトが罹患する風邪のウイルス4種類と動物から感染する重症肺炎ウイルス2種類に分類されます。現在、感染が拡大しているコロナウイルスはこれら6種に該当しないため「新型」に分類されています。
冬に流行する風邪の10~15%(ピーク時は35%)は4種類のコロナウイルスを原因とし、ほとんどの子供が6歳までに感染を経験するようです。稀に高熱を引き起こすこともあるようですが、感染者の多くは軽症で完治するため危険視されていません。
これに対し、2002年11月から2003年7月の間に中国広東省から30を超える国や地域に拡大したSARSは重症肺炎ウイルスの1つであり、コウモリのコロナウイルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられています。当初、この病気の感染源としてハクビシンが疑われ(食材としての)流通なども制限されていましたが、その後の研究でキクガシラコウモリが自然宿主であると考えられています。
2012年にサウジアラビアで発見されたもう一つの重症肺炎ウイスルであるMERSはヒトコブラクダに風邪症状を引き起こすウイルスでしたがヒトに感染すると重症肺炎を引き起こすことが分かり、これまでに27カ国で2,494人の感染者がWHOに報告され(2019年11月30日時点)そのうち858人が死亡しています。
我が国の経済や景気の面でみると、2019年の春節期間における海外旅行人数は前年比12.5%増の631万人に達し、2020年も前年を上回る旅行者の訪日が期待されていましたが、中国政府は移動制限を継続しているため期待を大きく下回る結果となりそうです。特に観光関連の事業者や訪日中国人の来訪を心待ちにしていた小売業界への影響は大きく、旅館やホテルでは大量のキャンセルに頭を悩ませています。
日本政府観光局(JNTO)の報道によれば2019年(1月~12月)は中国からの観光客がそれまで首位だった韓国を上回り、前年比14.5%増の960万人近くに達したと推計されています。また一人当たりの旅行支出も中国からの訪日客は約21万円と韓国の8.5万円の約2.5倍となっています。日中関係も緩和傾向にあること、東京オリンピックもあることから今年は中国から1,000万人以上の訪日客数を期待する関係者は多かったと思われ、訪日中国人に期待していた関係者が年明け早々から大きな逆風に苦慮していることは想像に難くありません。
日本百貨店協会が毎月発表している百貨店売上高概況をみても、1年前の2019年2月の売上高(国内市場)は僅かに前年割れ(シェア92.4%/0.6%減)となりましたが、インバウンド(シェア7.6%)の売上高は過去最高の319億円(14.8%増)となっていました。日本人の個人消費が昨年の消費増税で大きな伸びが期待できない中、訪日中国人の個人消費に期待をかけていた百貨店業界を含むすべての業界関係者にとっては、新年早々の「コロナ・ショック」が1日でも早く終息することを期待していることでしょう。
新型コロナウイルスの陰に隠れてあまり話題になっていませんが、厚生労働省の発表によれば今シーズン(2019/2020)のインフルエンザの累計受診者数は約502万人(2020年1月24日発表)、比較的症状が重い入院者数は9,751名となっています。新型コロナウイルスに効果的なワクチンや特効薬がないこと、感染力や潜伏期間が不明なのは上述したとおりですが、新型コロナウイルスの国内の感染者は9名であり幸いなことに亡くなった方はいない(執筆時点)という点も意識する必要があるでしょう。景気や経済活動への影響は未知数の部分が多いですが、受験シーズン真っただ中の時期でもあり、手洗い・うがいの励行やマスクの着用、身体の免疫力を高める工夫をするとともに、冷静な対応が求められます。
(堀記)