2020年はどんな年?
本コラムを執筆している12月27日で筆者は仕事納め。12月30日は金融機関の年内最終営業日ですが、30日がお休みの方は12月28日から1月5日までの9連休となる方も多いのではないでしょうか?
今年は約30年続いた平成に続き5月1日から新たに「令和」という元号が制定されました。音の響きや文字の美しさも含めて素晴らしい元号になりましたが、皆様にとって令和元(2019)年はどのような1年(8ヵ月?)でしたでしょうか。
2017年から、毎月月末配信分のコラムを担当させていただき今回でほぼ3年経過しました。今年も毎月月末の締め切りに向けて、「今月はどんなことを書こうかな。」と悩んでいましたが、昨年に比べると世界的な経済の動きや変化はより大きかった(激しかった)印象があり、2018年に比べると少なくともテーマの選定は比較的、容易だったような気がします。
今回は2019年の11回のコラムで私がコメントした後の動きや現在、考えていることを中心に記していきたいと思います。
1月のタイトルは灰色のサイと渋沢栄一でした。
将来、大きな問題を引き起こす可能性が高いにもかかわらず、現時点では軽視されがちな潜在的なリスクは、普段はおとなしいがいったん暴走し始めると誰も手を付けられなくなるサイに例えられ、「灰色のサイ(Gray Rhino)」と呼ばれます。中国の習近平国家主席が米国との貿易問題とこれに伴う中国経済の減速等を念頭に「ブラックスワン」に警戒するとともに、「灰色のサイ」を回避する必要があるとの認識を示しましたが、2019年は1年を通して中国と米国との対立が多方面で発生しただけでなく両国内の事情や外部要因により、対立が長期化しそうな兆しが見えています。今年のコラムを振り返ってみても、ほぼ毎月何らかの形でこの問題に触れています。
「日本資本主義の父」と称される渋沢栄一は、幕末から明治維新、日清戦争、日露戦争という激動の時代を経て、特に日露戦争後、現在の米国と中国のように日米両国の関係が微妙になりつつある中、両国の関係改善に民間の立場から腐心しながら数々の偉業を成し遂げました。このような激動の時代であるときこそ、立場は違えど我が国が世界経済にどのような貢献をすべきなのか再考する必要性を痛感しています。本コラム執筆後、2024年から新紙幣一万円札の顔となることも決まりましたし、2021年の大河ドラマが渋沢栄一翁の生涯となることも決まりましたので、どんな渋沢栄一像が描かれるのか、いまから楽しみにしています。
2月は英国の自動車産業についてコメントしました。
ブレグジット問題についても、先が読めない展開が続いていましたが12月の総選挙での保守党大勝の結果、2020年1月にEUから離脱することが決定しました。また英・EUの経済関係が現状のまま続く「移行期間」を2020年末から延期しない方針も盛り込みました。2020年もEU経済圏の行方だけでなく、世界的に広がりつつあるブロック経済化に注目していく状況は変わらないでしょう。
3月はSociety 5.0についてコメントしました。
Society5.0とは、内閣府の資料によれば、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society)と定義され、狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く新たな社会を指すものであり、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されています。
米中の貿易問題は単なる通商問題というだけでなくサイバー空間を含めた安全保障問題の側面も極めて大きいため解決には相当な時間を要するでしょうが、「今そこにあるものではなく、あるべきものを描ける力こそ、生物の中で人間にのみ備わっている能力である」という母校の学長の言葉を信じていきたいと思います。
4月は平成最後のコラムというタイトルとしましたが、内容は米中間の貿易問題についてでした。また、令和初となる5月のコラムについても、貿易が景気や経済、モノの物流に与える影響等についてコメントしました。
6月のタイトルはサブスクリプションサービスでした。
サブスクリプションについてはコラム執筆後も様々なサービスが提供されるとともに、関連企業の統合や淘汰の動きも進みつつある印象がありますが、2020年はどのような流れとなるのか引き続き注目していきたいと思います。
7月、8月については工作機械の動向について触れましたが、実質的には貿易問題に関するものでした。本コラム執筆時点でも当時と状況はほとんど変わっていないため、リセッション(景気後退)を予測する声も出てきているのが気がかりなところです。
9月については、ステーキの話というより地球温暖化の影響や事実確認の重要性について触れました。
自国優先主義を貫くトランプ大統領は11月には正式に地球温暖化を議論するパリ協定からの離脱を発表しました。2019年は地球温暖化の危険性を訴える環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの言動が多くの注目を集めましたが、現在世界中で起きているブロック経済化、格差拡大といった傾向は2020年も続きそうです。
10月は、今年の流行語大賞にもなった「One Team」のラグビー日本代表の大活躍がありました。世界の中で日本がどうやって戦っていくのか、課題を認識しつつも特徴や利点をどう表現し高めていくのかといった点からも2020年以降の日本の将来を考えていくうえで重要な視点をたくさん与えてくれたような気がします。
11月はCSF(豚コレラ)とASF(アフリカ豚コレラ)について触れました。
科学的にはウイルスによっておこる「豚コレラ」は細菌で起こるヒトのコレラとは何ら無関係であり、全くヒトに感染するものではないにもかかわらず、ヒトの疫病であるコレラを想起させるとの意見があったため、「豚コレラ」及び「アフリカ豚コレラ」の正式名称として国際獣疫事務局(OIE)が使用しているCSF(Classical Swine Fever)とASF(African Swine Fever)を用いることになっていました。その後、新聞報道等によれば、法律上求められる日本語表記での名称について畜伝染病予防法第2条(定義)を「豚(とん)コレラ・アフリカ豚コレラ」から「豚熱(ぶたねつ)・アフリカ豚熱」に改める方針が示されました。
この問題も米中の貿易問題の影響が小さければ、ここまで大きくなったとは思えません。来年以降もこれまで想定できなかった分野で実体経済やモノの物流や価格に影響を与える事象が発生することが予想されます。
今年1月に本コラムで触れた「ブラックスワン」や「灰色のサイ」と呼ばれるようなイベントが2019年に起きることはありませんでしたが、この数年、自国優先主義、排他主義、保護主義の空気が世界的に広がっており、特に今年はその動きが先鋭化したように思います。
1989年のベルリンの壁崩壊・東西冷戦の終結から30年、1997年の平成大不況から20年以上、2008年のリーマンショックから10年以上経過しており、新たな大イベントがいつ起きてもおかしくない状況となっているとも言えます。
とはいえ2020年は、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。ラグビー日本代表が見せてくれた日本の特長、強みを最大限に高めるために何をすべきかということを念頭に少しずつでも着実に前に進む努力をしていく1年にしていきたいものです。
今年1年、当コラムをご愛読いただき、ありがとうございました。執筆者一同(田中、孫、堀)深く感謝申し上げますとともに2020年も変わらぬご愛顧をよろしくお願い申し上げます。
皆様、よいお年をお迎えください。
(堀記)