この動産に注目! ― 牛肉 ―
気温が下がるにつれて空気が澄んでいる日が増え、青い空に映えるイチョウの黄色やカエデの赤色はますます鮮やかになっていく。12月も中盤に差し掛かり、近所のスーパーなどでは、クリスマスケーキの予約やおせち料理の宣伝などの年末恒例イベントで賑わっており、2019年が過ぎ去っていくタイミングが刻々と近づいてきたことをしみじみと感じる。2020年になると、東京オリンピックやパラリンピックといったスポーツの祭典があるほか、米国大統領選挙も控えており、新天皇が即位した今年を勝るとも劣らない賑わった1年になりそうで、にわかに楽しみである。
ところで、来年の米大統領選に向けてトランプ大統領が実績作りの1つに挙げられる日米貿易協定については、今月4日に承認案が参院本会議で可決・承認され、2020年1月にも発効する見通しとなった。貿易協定の発効により日本が米国から輸入する牛肉や豚肉などの関税が環太平洋連携協定(TPP)の締結国と同水準まで下がる一方、日本から米国に輸出する自動車の追加関税が回避されることや工作機械などの関税が撤廃されることなどが決められている。すでに伝えられている内容とはいえ、協定の正式発効に伴って米国産牛肉やワイン、果物などの価格がいよいよ下がってくれることは、一般消費者にとってはやはりありがたい。
輸入牛肉はTPPや日米貿易協定のおかげで価格が徐々に下がる傾向となっているが、今回のテーマである高級食材にあたる和牛の牛肉価格も上昇一巡でこの頃は調整が続いている。国産牛肉の中で黒毛和種に代表される和牛は、脂サシが多く入った柔らかな肉質が外国人観光客のインバウンド需要などに支えられ、近年の価格は過去最高値圏で推移しつづけている。しかしながら、高値続きで国内消費者の需要は鈍くなったうえ、健康志向から赤身を好む消費者も増えていることから、和牛よりも価格が相対的に割安な交雑種(和牛と乳牛の交雑)の人気が高まり、和牛から需要を奪っている。東京都中央卸売市場が発表している和牛A4(去勢)の価格は、直近2019年10月時点で1kgあたり2,365円と、前年同月比約6%安と3ヵ月続落している。
和牛価格に上昇一服感がある半面、和牛子牛の価格は高止まっており、生産コストはむしろ上昇傾向となっている。和牛価格が下がりつづけると、これまでの価格上昇を受けてようやく増えてきた出荷頭数は再び減少に転じ、供給の減少で価格が上がり、価格が上がったところで需要がさらに減るという悪循環になる可能性も懸念される。
筆者は普段、ほぼ輸入の赤身牛肉しか購入しないから、やはり時々サシが入った肉を食べたくなる。特に年末というタイミングはなおさらである。年末の需要期でさすがに和牛価格も上昇すると思うが、和牛生産者の懐と消費
者の胃袋がともにハッピーになれれば、年末なら価格多少が上がってもいいかなとちょっと思う。
(孫記)