お知らせ&コラム

2019-11-29 業界動向

CSFとASF

 ITや財務・金融、その他様々な分野で英語を略した頭文字で表記した言葉があふれています。API(Application Programming Interface)、HTTP  (Hyper Text Transfer Protocol)、EDI(Electronic Data Interchange)、IoT(Internet of Things)、ROE(Return on Equity)やROA(Return On Assets)、WACC(Weighted Average Cost of Capital)、CAPM(capital asset pricing model)などなど、枚挙にいとまがありません。

 最近最も話題になったのは期限切れ直前で失効が回避されたGSOMIA(General Security of Military Information Agreement)ですが、これは2016年11月23日から有効となっている「日韓秘密軍事情報保護協定」の略称です 。2019年8月23日に韓国が日韓GSOMIAを延長せず破棄を決定したことにより、11月23日午前0時に効力を失う予定でしたが、失効前日の22日に韓国側が破棄の通告を停止することが判明したのは記憶に新しいところです。
 アルファベットの略称は慣れてくると問題はないのですが、慣れないうちは、これは何の略だったかと混乱したり、順番を間違えて表記したりしてしまうのは私だけでしょうか。

 そんなアルファベットの略称に最近(11月22日)、CSFとASFが加わりました。農林水産省によれば、科学的にはウイルスによっておこる「豚コレラ」は細菌で起こるヒトのコレラとは何ら無関係であり、全くヒトに感染するものではないにもかかわらず、ヒトの疫病であるコレラを想起させるとの意見があったため、国際獣疫事務局(OIE)が「豚コレラ」及び「アフリカ豚コレラ」の正式名称として使用しているCSF(Classical Swine Fever)とASF(African Swine Fever)を用いることになりました。

 CSFについては日本では2018年9月9日、岐阜県の養豚農場において、2002年以来26年ぶりの発生が確認されました。その後、愛知県、長野県、滋賀県、大阪府、三重県、福井県、埼玉県(岐阜県を含め全1府7県)での発生(肥育中の豚への感染)が確認されています。また、愛知県、三重県、福井県、長野県、富山県、石川県、滋賀県、埼玉県、群馬県、静岡県、山梨県(岐阜県を含め全12県)では野生イノシシからCSFの陽性事例が確認されているものの、ASFの国内での発生は今のところ確認されていません。

 しかし世界最大の豚肉の生産地であり消費地でもある中国では、今年に入り大変な事態に見舞われているようです。もともと豚肉については世界中の豚の約半分が中国で生産され、自国で消費されていました。しかし中国では2018年8月に最初のASFの発生が確認されて以降、中国全土に感染が広がり、各種報道によれば飼養頭数の約4割が減少したようです。野生のイノシシも感染源とされているため、徐々に感染地域は広がり、北朝鮮から韓国まで感染が広がっています。
 中国国内における各種畜産品の足元の卸売価格の推移をまとめたものが図表1、日本国内の豚肉の小売価格の推移をまとめたものが図表2になります。

(図表1)中国の畜産品卸売価格     単位:元/㎏
  豚肉 牛肉 羊肉 鶏肉 鶏卵
2018年12月 19.52 60.33 60.90 15.99 8.74
2019年1月 18.58 61.15 62.69 16.19 8.72
2019年2月 18.33 62.96 64.34 16.68 7.93
2019年3月 19.48 61.29 61.32 16.21 7.09
2019年4月 20.31 60.22 59.92 16.1 7.74
2019年5月 20.63 60.23 60.18 16.59 8.87
2019年6月 21.59 60.45 61.08 16.56 8.47
2019年7月 23.64 61.07 62.45 16.43 9.25
2019年8月 28.49 63.18 63.81 17.33 10.12
2019年9月 35.91 67.12 66.45 18.94 11.30
2019年10月 44.61 68.19 67.18 19.62 10.96
2019年11月 48.13 69.93 68.10 20.61 11.17
上昇率(注) 247% 116% 112% 129% 128%
(注)上昇率=(2019年11月/2018年12月)  
(注)1元は約15.5円(11月30日時点)    
(出所)中華人民共和国農業農村部    

 

(図表2)国内の豚肉小売科価格 単位:円
  豚バラ肉 (100グラム) 豚モモ肉 (100グラム)
2018年10月 236 208
2018年11月 235 199
2018年12月 235 201
2019年1月 235 201
2019年2月 232 201
2019年3月 233 199
2019年4月 235 202
2019年5月 238 205
2019年6月 236 203
2019年7月 237 201
2019年8月 241 207
2019年9月 235 201
上昇率 99.6% 96.6%
(注)上昇率=(2019年9月/2018年10月)
(出所)総務省「小売物価統計」

 

 それぞれのデータ対象期間や卸売物価・小売物価といった違いはありますが、日本国内の豚肉価格があまり変化していないのに対し、中国国内の豚肉価格は1年前の2.5倍近くに高騰しています。中国では輸入を増やしているようですが、食肉については肥育に一定期間を要することから世界の半分の消費量を賄うだけの増産は困難であり、結果的に鶏肉や牛肉その他の畜産品の価格も上昇し市民の生活に大きな影響を与えていることが窺えます。

 豚は肥育期間が6ヵ月程度と牛(2~3年程度)に比べると短いものの、今回のASFの蔓延により相当数の母豚もASFに感染・死亡してしまっていることは確実であり、生産量が元の水準に戻るためにはさらに時間を要すると考えられます。

 中国では年明けの春節(旧正月)に向け、そしてトランプ大統領も来年の大統領選挙に向け、米中貿易摩擦に関する部分合意が年内にも発表されるのでは、との見方もありましたが、香港人権法案への署名をトランプ大統領自身が行ったことで、先行き不透明感が増しました。米中両国国民のみならず、世界中の人々が心安らかに新しい年を迎えられるよう、世界2大大国の歩み寄りが期待されます。

(堀記)

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