ステーキを食べることの是非
小泉進次郎環境大臣がニューヨークの国連本部で開かれた国連気候変動サミットに出席、環境関連会合でスピーチし、日本での脱炭素社会の実現に向けた取り組みを紹介しました。
「気候変動のような大きな問題に取り組む際には『楽しく』『格好良く』『セクシーで』なければならない」というスピーチの内容だけでなく、気候変動対策を議論する会議に出席する環境大臣が「ステーキを食べること」について批判的な論調の報道を目にしたので、温室効果ガスの現状について調べてみました。
小泉環境相に対する批判は若干的外れではないかと思われる物を含めて様々なものがありますが、メタン(ゲップやオナラ)の排出量が多い牛(ステーキ)を食べることを問題視しているものが多いようです。
全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)によれば、温室効果ガスはメタン(CH4)以外に、二酸化炭素(CO2)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)などがあり、メタンは単位重量当たり二酸化炭素の25倍の温室効果をもたらすとされています。
JCCCAによれば、世界全体で発生している温室効果ガス(CO2換算ベース)のうち、76.0%が二酸化炭素によるとされており、内訳は化石燃料を由来とするものが65.0%、山火事などを要因とするものが11.0%となっています。メタンはどうかというと、CO2換算ベースで16.0%と二酸化炭素に次ぐ量となっており、決して無視できる量とは言えません。
日本国内でみると温室効果ガスの排出量合計約12億9,200万トン(CO2換算ベース)のうち92.1%が二酸化炭素であり、メタンは2.3%(同)であり、実質的な排出量は119万トン程度で二酸化炭素の0.1%程度と推計されます。
国内の温室効果ガスの排出は2013年をピークに減少していますが、減少幅が大きいのは二酸化炭素であり、メタンや一酸化二窒素はほぼ横ばいとなっています。また、国内の一次エネルギー総供給の内訳を見ると、石炭・石油・天然ガス等の化石燃料が全体の9割以上を占めており、特に2012年以降は前年に発生した東日本大震災の影響により発電時に温室効果ガスを発生しない原子力発電のシェアが激減しています。
温室効果ガスであるメタンが、牛の肥育段階で発生することについては、全く問題なしとはいえないでしょう。しかしメタンの発生から論理を飛躍・発展させ、ステーキを食べることまでを批判・非難するのであれば、より大量の温室効果ガスを発生する化石燃料の使用や原子力発電の是非についても公平に比較・検討したうえで、判断することが重要と考えます。
また牛をはじめとする家畜に与える穀物飼料と人間が食用とする穀物との競合や肥育時に大量に使用する水資源を問題とする論評も目にします。それぞれの主張そのものは誤っているとは思いませんが、安定供給を図るための品種改良技術の発達により、病害虫や自然災害への耐性が改善されるという便益を享受していることについて、感情論ではなく科学的なエビデンスを踏まえ、副作用や費用対効果を考慮した対応策・代替策の検討を議論することが不可欠でしょう。
(堀記)