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2019-08-02 業界動向

工作機械の受注状況はリーマンショック級

 「機械を作る機械」「マザーマシン」ともいわれている工作機械の受注状況は企業の設備投資の先行指標であり、今後の国内外の景気動向を占ううえで重要な指標ですが、その受注統計の数値はここのところ、芳しくない状況が続いています。

 一般社団法人日本工作機械工業会によれば、2019年6月の受注総額(確報ベース)は前年同月比37.9%減の989億円、うち内需は同40.1%減の377億円、外需は同36.4%減の612億円でした。外需は昨年10月から前年割れの状況が続いており、内需も昨年12月から前年割れの状況が続いていますが、足元(2019年6月)の確報実績値はリーマンショック以降で最大の減少幅、かつ、ほぼリーマンショック時と同水準の減少幅となっています。

 ちなみに、リーマンショックが起きたのは2008年9月15日(リーマンブラザーズ証券の経営破綻日)ですが、翌月(2008年10月)の工作機械受注額は前年同月比40.0%減の815億円、11月は同62.2%減の516億円、12月は同71.9%減の367億円と急減しました。翌2009年も同じような状況が続き、2009年通年では前年比68.4%減の4,118億円と受注総額は1978年と同じ水準にまで落ち込みました。なお2018年の受注総額は1兆8,158億円にまで回復しており(リーマンショック前のピークは2007年で1兆5,900億円)、日本の工作機械メーカーは引き続き高い競争力を保ちながら世界中の製造業を支えています。
 
 工作機械の受注の内訳については、2007年以降、外需が内需を上回るようになり、現在、内需が約4割に対し、外需が約6割となっています。外需の内訳は、アジア向けが約50%(うち6割、全体の約3割が中国向け)、北米が約3割、欧州が約2割というのが大まかな全体構造となっています。
 需要業種別には鉄鋼・非鉄金属を除く内需全般で落ち込みが著しいですが、特にスマートフォンを中心とした電気・精密機械関連や、自動車向けの受注が大幅に減少している他、外需は、受注全体の約3割を占める中国向けが昨年秋口から減少、2019年4月~6月の受注は前年同期比で約40%の水準にまで減少しています。

 米中両国は昨年9月から互いに本格的な追加関税措置の発動を開始し、この影響により2018年10月から工作機械の受注は前年実績を下回っています。ダウ、NASDAQ(ナスダック)、S&P500といった米国株は過去最高値圏で推移している状況にありますが、足元の工作機械の受注状況がリーマンショック以降、最大の減少幅となっている点には注意する必要があるでしょう。

 EUも日本と同様、米中貿易戦争の影響により、自動車産業をはじめとする景気減速感が広がっており、英国でEUからの強硬離脱派であるボリス・ジョンソン氏の首相就任が決定し、英国経済の先行き不透明感から英国の通貨であるポンド安が進んでいます。
 EUでは10月末に辞任するドラギ総裁の元、さらなる金融緩和策が取られる予定であり、米国もトランプ大統領のTwitter攻撃もあり10年ぶりの金利引き下げを決定するなど、さらなる景気減速を予感させる動きが進んでいます。
 工作機械工業会では、今年(2019年)の受注予測(前年比11.8%減の1兆6,000億円)を9月中にも下方修正する予定ですが、工作機械の受注統計や世界中で起きている事象を見ていると、リーマンショックと景色は若干異なるものの「いつか来た道」の気配が濃厚になりつつあるように思えてなりません。

 工作機械は、消費財とは異なり、通常、短期間で買替、更新投資をするものではなく、工作機械ユーザーである各種メーカーが数年から場合によっては数十年という比較的長期間使用することを前提とする生産財です。工作機械を使う事業会社の経営者は他社との競合や自社の生産性や効率性を総合的に考慮したうえで設備投資を行うか否かの最終的な意思決定を行うと考えられます。その経営判断にあたり投資回収期間を考慮した今後の収益(売上と利益)に関する不透明感が受注の急減の要因となっているのだとすれば、やはり深刻な問題が進みつつある状況にあると言わざるを得ません。工作機械の受注が急減したといっても、短期的な個人消費に与える影響は限定的かもしれませんが、繰り返しになりますが景気の先行指標が無視できない水準にある点には引き続き留意すべきでしょう。

(堀記)

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