本格化する貿易戦争
令和初の国賓としてトランプ大統領が5月25日に来日しました。天皇皇后両陛下との会見、安倍首相とのゴルフ、相撲観戦、六本木の炉端焼き、自衛艦視察といった日程を滞りなく終え、28日に帰国の途に就きました。
今回の来日の最大目的の一つである日米首脳会談では両国間の貿易問題に関する議論もなされたようですが、大統領からは7月に予定されている日本の参議院選挙を意識した発言があり、日米間の本格的な交渉は7月以降となる見込みです。
一方で、米国発の貿易戦争の本丸ともいえる米中間の交渉は方向性は、この1か月でだいぶ変化しました。先月までは最終的には両国とも矛を収めるだろうと思われていましたが、5月10日の米中実務者による協議が不調に終わり、米国による中国製品への関税率の引き上げが決定、続けて中国側から対抗措置として米国製品に対する関税の引き上げが発表されました。米国は7月にも第4弾の3,000憶ドル分の追加関税の引き上げを予定していますが、米中の企業を顧客とする企業では受注の大幅な減少や生産拠点の見直し等、既に深刻な影響が出ています。米国のファーウェイへの輸出禁止措置が発表されたことにより国内でもファーウェイ製の携帯電話の新製品の発売が延期されたり、中国からはレアアースの輸出に関するコメントが発表されるなど、両国間のやり取りは今月に入り激化し、その影響も多方面に波及しており、先月までの楽観ムードはすっかり遠のいてしまったようです。
我が国のように最終製品だけでなく、最終製品を構成する各種部品を輸出している国は、最終製品がどこに向かうか、どこで消費されるか、どこで利用されるかという面でも大きな影響を受けるといえます。日本貿易振興機構(JETRO)によれば、世界貿易の輸出に占める米中のシェア(金額ベース)は約22%、輸入に占めるシェア(同)は約23%となっており、米国または中国で組立られ、輸出される製品に組み込まれる日本製の基幹部品や現地で生産される各種部品・製品を考えると、我が国の経済にとっても極めて深刻な状況と言わざるを得ません。
OPECが減産体制の維持方針を表明し、米国イラン間の軍事衝突が懸念され、緊張感が高まっているにも関わらず、それ以上に世界的な景気減速が懸念されるため、原油価格は下落しています。銅は、電線や伸銅品、各種機械部品等に幅広く使用され、ロンドン金属取引所(LME)に上場され国際指標となっていますが、世界需要の半分を中国が占めるため、世界景気の先行きを知るうえで極めて重要な指標でありDr.Copperと呼ばれています。銅は現在、5ヵ月ぶりの安値水準となっており、特に米中の対立が鮮明化した5月に入り10%近く価格が低下しています。
トランプ大統領の関心事は、株価と2020年の大統領選挙の2点だけとする意見もあるようですが、単なる貿易不均衡や大統領選挙の問題ではなく貿易戦争の背後に安全保障上の問題が隠れているとすれば、両国の問題はそう簡単には解決するようには思えません。そうした観点からは今回の貿易戦争は従来の日米貿易摩擦とは本質的に異なる部分といえるでしょう。
米中両国の言い分にはそれぞれ政治的、経済的背景があり、交渉が簡単に決着がつくとは思えませんが、今回のトランプ大統領の訪日で改めて感じたことは、SNSや報道のやり取りだけではなく、直接会って、握手をしたり、互いの目を見ながら膝を交えた対話を通じて妥協点を見出すことの重要性です。大統領と首相のゴルフ場での写真や、天皇皇后両陛下が通訳の存在を忘れるほど、大統領夫妻と英語で話し込んでしまうなど、生身の人間同士が直接向き合うことの素晴らしさを再認識しました。
幸いなことに、6月28日、29日に大阪でG20首脳会議があり、トランプ大統領と習近平国家主席が直接会談することも予定されているようです。日本にとって最も重要な2国の首脳の会談の橋渡しが上手くいき、世界経済の安定的な発展につながる役割を果たせることを期待しています。
(堀記)