お知らせ&コラム

2019-02-28 業界動向

英国の自動車産業

 先日、小惑星探査機「はやぶさ2」がC型小惑星リュウグウに着陸しサンプル採取に成功した、というニュースがあった。地球から3億キロメートル離れた天体に探査機を飛ばし、さらに最終的にはリュウグウの上空20キロメートルから半径3メートルの円めがけて幅2メートル弱の「はやぶさ2」を着陸させるという素人の私には到底信じがたい偉業を成し遂げてくれた。JAXAの技術者の方はもちろん、プロジェクトに関与されたすべての方々の努力の賜物であり、見ている我々に勇気と感動を与えていただき感謝している。
 はやぶさ2のミッションは年内は続く見込みであり、地球に帰還するのはさらに先の2020年末と予定されているが、計画通りのミッションを達成し、無事に帰還することを心から祈っている。

 はやぶさ2のグッドニュースに対し、米中貿易戦争は2月末の交渉期限が延長され、3月2日からの中国製品に対する追加関税の引き上げは延期となった。米国、中国ともに国内景気の減速が懸念される中、お互いにいったん「休戦」という選択肢で妥協したものの、双方の主張の隔たりはなお大きく、そもそも安全保障とも密接に関連しているため問題の抜本的な解決には至っていない。
 ニッケルや銅などの非鉄金属は米中摩擦の緩和を見込み、価格の底打ち感が見られるものの、中国国内の各種製品の生産や需要も本格回復には至っていないし、中国と貿易面での関係が深い豪州の景気にも減速感が出ていること、さらには欧州もEUの中心であるドイツ経済を中心に減速基調が鮮明になっているのは不安材料である。

 また、3月29日にEUからの離脱を予定している英国とEUとのブレグジット交渉も引き続き難航している。こちらも米中貿易戦争と同様に期限延期になりそうな情勢だが、EU側の主張と英国の主張は歩み寄りの姿勢は全く見られず、こちらも全く予断を許さない状況が続いている。

 こうした中、ホンダはスウィンドン工場での「シビック」等の生産を2021年中に終了すると発表した。スウィンドン工場は1992年に生産を開始し、現在、英国内での生産シェアが10%を超え、生産台数も4位となっている。報道によれば工場労働者だけで3,500名、関連企業も含めれば1万人以上の雇用を維持していたため、地元経済に与えるインパクトはとても大きい。
 また、日産もサンダーランド工場で行っていたSUV車「QASHQAI(キャシュカイ)」の次期モデルの生産を撤回した。
 サンダーランド工場で生産している「QASHQAI」は人気車種であり、サンダーランド工場の生産台数では英国国内でトップシェアを争い、7000人の雇用とサプライヤーの従業員も3万人近くと推計されている工場だけに、こちらも生産台数の減少による影響は甚大である。

 英国での生産中止は世界的な生産体制の見直しの一環であり、ブレグジットとの関係は全くないとホンダは発表している。そもそも部品メーカーや各種サプライヤーを含めた裾野の広い業界構造を特徴とする自動車産業にとって、関連企業を含めた質の高い人材確保や物流網が生産体制を維持していくうえでは極めて重要である。にもかかわらず、現在の英国内の諸問題が英国に元々ある様々な魅力を抑圧してしまっており、その解決には長時間を要するというのが、今回の決断の根底にあるというのが実情ではないかと考える。人材確保と物流というのは一朝一夕で出来上がるものではなく自動車産業だけに関わる問題ではないため、英国国内に生産拠点を構える企業の事業活動の見直しの動きは他業界にも波及していく可能性は高いだろう。

 「はやぶさ2」のミッションには、「原始太陽系における鉱物・水・有機物の相互作用を解明することで、地球・海・生命の起源と進化に迫るとともに、「はやぶさ」で実証した深宇宙往復探査技術を維持・発展させて、本分野で世界を牽引する」(JAXAはやぶさプロジェクト資料)とある。つまり、「過去から学び、未来につなげよう(温故知新)」という思いが根底に込められている。
 
 ブレグジットも米中貿易戦争も、その他の多くの諸問題についても、歴史や経緯に真摯に対峙するとともに、発展や成長、相互理解につながる解決策を見出す努力を粘り強く続けることが重要ではないかと考える。
(堀記)

 

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