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2018-09-28 業界動向

貿易戦争の行方とリーマンショック

 7月、8月のコラムで触れた米国の中国に対する関税措置の第三弾が24日から発動された。
 対象品目は5,745品目であり、当初予定されていた6,031品目からスマートウォッチやBluetoothデバイスといった特定の家電製品が除外された。国内のクリスマス商戦を考慮して年内の関税率は10%とし、2019年1月1日から25%に引き上げられるとの発表があったため、一部には全面的な貿易戦争は回避されるのではとの見方もあるようだ。
 ただ、その後すぐに中国も対抗措置を打つなど、まだまだ先行きは不透明である。年明けから今回のリスト対象品の関税率が25%に引き上げられると米国の個人消費にも直結することは間違いなく、年内に回避のめどが立つのか目が離せない。

 構造的な問題とはいえトランプ大統領のお気に召さない対日貿易赤字も続いており、次の制裁発動は日本かとおびえていたが、9月26日の日米首脳会議の結果、自動車への追加関税は当面発動しないことが決まった。とりあえず農産品などの関税を含む2国間の「物品貿易協定」の交渉開始で合意し、米側の高関税措置を当面は回避した形となっているが、万が一、自動車分野で貿易戦争が再燃する事態になれば、すそ野が広い自動車産業に与える影響は甚大だろう。1980年代の時に比べると燃料電池や各種電装品など前回の貿易戦争の時とは若干異なる分野への影響も懸念される。

 貿易戦争ではないが、米国のイラン核合意の離脱後、両国間の関係もこじれており、原油価格への影響が出ている。イランが原油の生産を抑制しており、本コラム執筆時点で原油価格は1バレル80ドルにまで上昇しているため、原油価格がこの水準でこのまま推移すると、ガソリンやこれから需要が増えてくる灯油はもちろん、原油やナフサを原料とするあらゆる化学製品への影響が出てくるのは必至である。

 話は飛ぶようだが、今月はリーマンブラザーズ証券が破たん(2008年9月15日)した、いわゆるリーマンショックから10年が経過した月にあたる。一方で米国株式相場(ダウ平均株価)はリーマンショック後、上昇基調を続けている。
 リーマンショックという言葉だけが残っているが、当時はニューセンチュリー・ファイナンシャルの破綻(2007年4月)、ベア・スターンズの巨額損失表面化(2007年6月)、パリバショック(2007年8月)、ベア・スターンズの実質破綻(2008年3月)といった伏線があり、リーマンショックに至ったという経緯を忘れてはいけない。注目すべきはリーマンショックとその後の状況ではなく、伏線となった事象とその背景、当時どのような判断がなされていたかということであり、現在起きている貿易その他のニュースを見るときにも、そうした視点を意識することが重要ではないかと考えている。
 
 現在の状況はリーマンショックの時ほど金融システムそのものに影響を及ぼすような大きな事象は存在しないので、リーマンショックの時とは違うのだ(この先もなんとかなるのだ)、という声もある。しかし金融システムの問題がないから実体経済への影響はないのだろうと考えるだけではなく、実体経済の変調が金融システムへに及ぼす影響も含めて考える、という視点も必要なのではないか。

 一時の喧騒は去ったとはいえ、トルコやアルゼンチン、メキシコ等新興国の通貨問題は抜本的に解消したとはいえないし、それ以外にもブレグジットの行方を含め金融や貿易に影響を与える火種となる問題はいくつもありそうだ。「絶対」という意識を捨て、可能な限り多くのシナリオを想定し、準備を行う必要があるだろう。

(堀記)

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