錬金術
前回(7月)のコラムで米中貿易戦争について触れたが、先月の第一弾に続き、今月8月23日には第二次措置が発動された。
(図表)追加関税の主要対象品目
米 国 | 品目数 | 対象額・税率 | 中 国 | 品目数 | |
第1弾(7月6日) |
自動車 |
818 | 340億ドル・25% | 農産品(大豆、牛肉等) 自動車 |
545 |
第2弾(8月23日) | 電子部品 プラスチック製品 |
279 | 160億ドル・25% | 石油、LNG 医療機器 |
114 |
第3弾(未定) |
家具 |
6031 | 2,000億ドル・10% | 未定(中国の米国からの輸入総額は1,700億ドル程度(2017年)であり、関税だけでは同規模の対抗は不可) |
(出所)各種資料より当社作成
「貿易赤字」は不均衡(imbalance)や赤字(deficit)ではなく損失(loss)であるとし、二国間の取引(deal)により解決する、との主張をトランプ大統領は首尾一貫変えていないように見える。米国の著名な学者たちはトランプ大統領の政策批判を行っているが、大統領はそんな声には聴く耳を持たず11月6日の中間選挙までは、うまくいったら自分のおかげ、うまくいかなくても前政権よりはマシ、との主張を続けると、筆者はみている。
この問題の行方は、世界第1、第2の大国間の問題だけにとどまらず世界経済に与える影響は甚大であり、引き続きウォッチしていくとして、今月は「錬金術」について、最近感じていることについて触れてみたい。
そもそも錬金術とは、鉄やアルミニウムなど貴金属以外の金属から、貴金属(金や銀)を精錬することを目的とした試みである。最終的には錬金術自体は不可能であることが分かったが、その試行錯誤の過程で多くの化学薬品の発見や実験道具の開発など、科学(化学)技術の発展に多くの貢献をもたらした。
また、錬金術ではないが、我々人類は、地球内部の高温、高圧の状態で炭素の構造が変化し生成される(天然)ダイヤモンドを宝石や工業用研磨材として利用してきた。しかし、科学技術の発展により、合成ダイヤモンドの高品質化・量産化が進み、宝飾品としての天然ダイヤモンドと遜色のない品質の人工ダイヤモンドが生産されるようになっている。見た目では天然ダイヤか人造ダイヤの判別がつかないが、両者の価格差があまりに大きいため、宝飾品を取り扱う事業者の悩みの種は尽きないようだ。
いずれにしても新たなチャレンジを続けていく中で思わぬ副産物が生まれてくるものなのかもしれない。
話が横道にそれそうになったが、弊社は新たなチャレンジとして、先日、大分県豊後高田市で肉牛の繁殖事業を開始した。http://www.city.bungotakada.oita.jp/page/page_04321.html
このチャレンジが、本題である錬金術とどのような関係があるのか、ということであるが、そもそも、現在、我が国で肥育され食用として用いられている畜産物は牛、豚、鶏、肉でほぼ100%(枝肉ベース、馬肉と羊肉はごくわずか)を占めている。
こうした畜産動物には配合飼料として大豆やトウモロコシなどが給餌されているが、大豆やトウモロコシは人間が食用とすることもできる。
草食動物である牛は人間が消化できない植物(セルロース)を分解し、エネルギー源に変換(筋肉や牛乳等)できるが、豚や鳥は植物(セルロース)を分解することができない。つまり、主な家畜の中では、牛だけ(実際には羊や山羊などの草食動物)が、食物の観点から人間と競合せず肥育できる可能性を有している。
現在の肉牛肥育はサシ(脂肪交雑)を増やすために、配合飼料を与え肥育することが一般的であり、そうやって育てた牛肉はとてもおいしい。しかし、一方では放牧により牧草を中心とした飼料を与え、赤身肉の良さをアピールした牛肉を肥育・販売する動きも広がりつつある。
わが国では高齢化の進展とともに、農業に携わる方々も急速な高齢化が進み、耕作放棄地も拡大している。こうした状況の中で、人間が栄養源(食用)とすることができない植物から、肉や牛乳を生み出し、糞は肥料として牛の食料となる牧草(植物)の栄養源として再利用(リサイクル)されるという意味で、牛の放牧はまさに「錬金術」ともいえるのではないかと思う。
放牧による肉牛肥育のような取り組みに限らず、自然環境やSDGs(持続可能な開発目標)に配慮した取り組みが広がっていくことを引き続き期待するとともに、弊社でも様々な取り組みを通じて、地域経済に貢献していければと考えている。
(堀記)