「A5ランクの和牛」と「特A米」
A5ランクの和牛と聞くと、どういうイメージを持つだろうか?
ご存じの方も多いと思うが、牛肉の規格はC1からA5までの15ランクに分かれ、高級牛肉の代名詞とも言われているA5やA4の和牛は、筆者もこれまで数度口にしたことがあるが、柔らかくて、脂ものっていて、本当においしく、食べると幸せな気分になる。
そもそも牛肉の等級は歩留まり等級(肉の可食部分の比率が標準より高いか低いかによってAからCランクに分類)と肉質等級(脂肪がどれだけ含まれている、肉の色合いはどうか、肉の締まりやきめはどうか、脂肪の色合いと質はどうかという、4つの項目により5から1ランクに分類)という2つの指標の組み合わせにより、C1ランクからA5ランクが決定され、実際、食肉市場のセリではこの順番に価格が高くなる(A5が最も高価)傾向にある。
ただし、ランクを決定する要因には、味覚に関する基準(おいしいかどうか)は一切入っていないことがわかる。つまり肉の食味(うま味)はランクを決定する要因には形式的には、なっていない。
また、最近、スーパーや量販店のお米コーナーで「食味ランキング特A米」という宣伝を見かけるようになった。そうした銘柄のお米は一般的なお米に比べて若干高い価格で販売されている。
米の食味ランキングは日本穀物検定が毎年発表しているものであるが、同協会のホームページを見ると、流通する全てのお米を評価しているものではありません、とか、「商品そのものの評価ではありません」等の表示を行い、消費者に誤解を与える恐れのないようにしてください、といった注意書きが記載されている。
全国各地でブランド牛肉や特A米のブランド化など、高付付加価値化による差別化が積極的に進められる一方で、牛肉の分野では健康志向の観点から脂肪分が少ない赤身肉への注目が高まっており、外食産業ではリーズナブルな価格で安定的に確保可能な業務用米が農業従事者の高齢化の進展、耕作放棄地の高止まり、飼料米への転作等により不足することで業務米の価格が上昇する一方、消費者が口にする米の小売価格は「米離れ」により消費が進まず、ブランド米の高価格での販売にも影響を与えている、との報道も目にする。
肉やお米の生産に携わる方はもちろん、肉質改善や米の品種改良に関与する研究者の努力は、心から素晴らしいと思う一方で、上述したように赤身牛肉や経産牛(出産を繰り返した繁殖用メス牛)を使った熟成肉、外食事業者との連携により業務用米の安定供給を図る生産者など、アイデアと創意工夫で高付加価値化、差別化を実現している事業者も大勢いらっしゃる点は見逃してはいけないだろう。
少子高齢化、生産年齢人口の減少、減反政策廃止、等々、危機感をあおる言葉があふれる中、選択と決断を迫られる状況が続いている。
コップに水が半分しか入っていないか、まだ半分も入っていると考えるか、しばしば用いられる例えではあるが、「政策や国の意向、既存の規定や既成概念だけにとらわれない」という考えの中に「好機」が潜んでいるのではないだろうか。
(堀記)