地理的表示による地域振興
GIという言葉を耳にしたことがあるだろうか?
インターネットで検索してみると、米軍軍人の俗称、グリセミック指数(glycemic index)、性同一性(gender identity)等、多くの略称が出てくるが、今回のテーマは地理的表示(Geographical Indications)である。
我が国では、2015年6月に特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(地理的表示法)が施行された。これは、生産・加工業者の団体が「地理的表示」に関する登録申請を行い、農林水産大臣が審査の上、当該地理的表示や団体を登録するものであり、生産者の利益や地域の知的財産の保護、需要者利益の保護を図るための法律である。
農林水産省の資料によれば、「地理的表示」とは、農林水産物・食品等の名称で、その名称から当該産品の産地を特定でき、産品の品質等の確立した特性が当該産地と結びついていることを特定できる名称をいう、とされている。
国内初の「地理的表示」の認定(2015年12月22日)は、あおもりカシス(青森県青森市等)、但馬牛(兵庫県内)、神戸ビーフ(兵庫県内)、夕張メロン(北海道夕張市)、八女伝統本玉露(福岡県内)、江戸崎かぼちゃ(茨城県稲敷市等)、鹿児島の壺造り黒酢(鹿児島県霧島市等)の7種である。
この、あおもり(地名)とカシス(果実名)、但馬(地名)と牛(生鮮肉名)といった生産地と商品と特性を結びつけたものが「地理的表示」であるが、本コラム執筆時点では、外国産品(パルマの生ハム)を含む62種が登録されている。
制度概要その他については、農林水産省のホームページに詳しい記載があるが、個人的に興味があるのは、「地理的表示」を登録した場合の4つの効果(模倣品の排除、取引の拡大、担い手の増加、価格の上昇)である。(http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/)
模倣品の販売という知的財産の侵害に対しては、自ら訴訟を提起する等の負担がなく、不正な表示の除去や抹消命令により行政が取締りを行うというメリットがある他、取引の拡大(生産や出荷額の増加)、担い手の増加、価格の上昇のように、高齢化による離農が進む地域経済にとってプラスになる要素が多い点に特に着目している。
弊社では日本全国の様々な企業や金融機関を訪問することが多い。そこで触れた自然や食材をはじめとする農林水産品については、地元の方にとっては当たり前(日常的)すぎて、その価値の高さや希少性に気づかれていないと感じることがよくある。現在の「地理的表示」登録は上記の62種だが、本来的な価値と現状の流通価値に大きな乖離を有しながら埋もれている「お宝」や「レアアイテム」が、全国的にも世界的にもまだまだ数多くあると推察される。
「地理的表示」の認定品目を増やすことは上述したとおり、担い手の増加や価格の上昇を通じた取引拡大のように生産者流通事業者にとって望ましい要素が多いため、その認定に際しては、審査基準等を戦略的に緩和するなどの施策を積極的に推進していく必要があると考える。また、農林水産物以外にも、工芸品を含む各種「ご当地産品」の生産・流通を活性化する各種施策の策定が期待される。
(堀記)