カオスと業界動向
知人の薦めで「カオス-新しい科学をつくる(新潮文庫)」(ジェイムズ・グリック著、上田 睆亮(よしすけ)監修、大貫 昌子訳)を読んでみた。今から30年近く前の1990年代初頭に発売され重版されていないため、Amazonで中古本を購入した。古書店を巡り思いがけない本と出合うという喜びは捨てがたいが、新品としては買えない本をワンクリックで、しかもコーヒー1杯程度の価格で購入でき、数日以内に自宅に配送してもらえるサービスは何ともありがたい。
本の内容は、バタフライ効果に始まり、フラクタルやストレンジ・アトラクタといった言葉(概念)がどのような背景から生まれ、どのような意味を持っているのか、研究開発に取り組んでいた研究者たちの言動などを交えた解説が中心であった。しかし、内容といえば微分方程式、トポロジー、ポアンカレ予想やらなんやらと、数学に疎い筆者からすると一読しただけでは内容を完全に理解することは難しく、まさに頭の中が「カオス(混沌)」になったため、同じくAmazonで「やさしくわかるカオスと複雑系の科学」(1996年、日本実業出版社、井上 政義著)の中古本を購入してみたが、残念ながら、こちらの方が内容は難解だった。
ちなみにカオスについて最もわかりやすかった(理解したわけではない)のは京都産業大学理学部の細野雄三教授の解説であり、細野教授の説明を読んでから「カオス」を読む(再読する)と、より理解が深まるのでお勧めしたい。(https://www.kyoto-su.ac.jp/project/st/st11_01.html)
そもそもカオスの研究は気象予想をより正確に科学的に行えないか、という観点から研究が始まったとされている。本書ではコンピュータの創成期ともいうべき時代に研究者が苦労したことをうかがわせる記載が数多く紹介されているが、現代の天気予報の精度が、以前に比べると格段に上がっている要因は、カオス理論をもとにして積み上げた英知とコンピュータの計算能力向上によるところが大きいのだろう、ということを改めて感じた。数日先の天気予報が大きく外れることはないことのすごさに感動を覚えるのと同時に、数か月先の長期予報の精度を上げることが現時点でも難しいことがこの本を読むとよく理解できる。
本書ではほとんど触れられていない(246ページに数行の記載のみ)が、カオス現象自体は監修者である上田睆亮教授が1961年に世界で初めて発見したものの、日本ではその研究に日があたることはなく、それから20年近くが経過した後に上田教授の業績が世界的な認知を得るようになったというエピソードも興味深かった。
弊社では様々なモノ(動産)の調査を行ったり、様々な業界との接点を持ちながら評価や調査をはじめとする各種業務を行っているが、基本的にはすでに発生した事象や現在の状況を元にした判断であったり、予想が中心になる。
例えば、ある作物の産地で干ばつが起こると、作況が悪化し、当該作物の生産地が他にない場合、当該作物の価格がその後上昇することは容易に想像できる。
しかし、そもそも干ばつのきっかけが何なのかという要因(気温や降水量、海水温等)をあらかじめ分析・特定できれば、もしかするとその後の予測だけでなく対応策についても考え、準備することができるのではないか、さらには一見何の関係もなさそうに見えるモノ(事象)とモノ(事象)との間に、実は明確な相関関係があるのではないか、そんなことをついつい考えてみたくなる本であった。
Amazonで注文した後に「この商品を買ったあとに見るのは?」というセールス文言に簡単に引っかかってしまう筆者は、書店に行っても仕事や自分の関心・興味の延長線上にある本をついつい手に取ってしまうことが多いが、今回読んだ本は全く別の視点を与えてくれるものであった。大型連休の間には、新たな出会いができそうな本を探し回ったり、少しばかりの思索にふけってみようと思う。
(堀記)