ペーパーレス社会?
8月、9月と2か月連続で暗号通貨について触れたので、今月は、最近気になっているあるモノについてコメントしたい。
弊社サービスの『動産Value』では、現在400弱の動産について、業界動向、キーワード、相場・統計情報、事業性評価上のチェックポイント等について解説している。
今回のテーマである「ペーパー(紙)レス社会」関連の動産としては、「紙」「板紙」「特殊紙」「紙袋」の他、古紙については「非金属スクラップ」と、合計5つの動産について掲載しているが、まずは2000年9月と2017年9月時点での紙(洋紙)と古紙の価格変化をご覧いただきたい。
(注)洋紙とは、木材パルプ等を原料として西洋式の方法ですいた紙であり、和紙と区別するための名称。
(図表タイトル:洋紙、古紙の価格変化) 単位:円/キログラム
2000年9月(A) |
2017年9月(B) |
B/A | ||
洋紙 | 上質紙(標準品) | 118.5 | 136.5 | 115% |
中質紙(印刷B) | 114 | 112.5 | 99% | |
コーテッド紙(軽量コート紙A3) | 118.5 | 111.5 | 94% | |
微塗装工紙(中質紙) | 115 | 113.5 | 99% | |
両更クラフト紙(重包装紙) | 109 | 130 | 119% | |
純白ロール紙(白夜) | 134.5 | 152 | 113% | |
上質フォーム用紙(大巻取り) | 122.5 | 132.5 | 108% | |
PPC用紙(カット紙) | 135 | 124.5 | 92% | |
古紙 | 新聞(東京) | 4.75 | 11.5 | 242% |
雑誌(東京) | 0.5 | 9 | 1800% | |
段ボール(東京) | 3.25 | 12 | 369% |
(出所)日本経済新聞
(注)価格は高低の中間値
この17年で、洋紙の価格がさほど変化していないのに対し、古紙の価格は大きく上昇していることがわかる。価格の上昇率だけを見ると、雑誌(古紙)が17年間での変化が最も大きいが、全体的に洋紙の価格変化に対して、古紙の価格変化が大きいことが見てとれる。
価格の変化は上記のとおりだが、生産量は次のとおりである。
洋紙等の紙の生産量は2000年の19,037千トンから2016年の14,706千トンと約23%減少しているのに対し、段ボール原紙の生産量は2000年の9,676千トンから2016年の9,364千トンと減少幅は約3%にとどまっている(経済産業省の生産動態統計年報(2000年は紙・パルプ統計年報))。
一般個人の生活では、インターネット版の新聞や雑誌、電子書籍等の急速な普及、パソコンや携帯電話のような電子機器では紙ベースの取扱説明書自体が電子版となったり大幅に削減されたり、クレジットカードの請求明細もパソコンで確認する方法に変更される等々、紙ベースの書類の減少は著しい。また、小学校から大学、学習塾等の教育現場でもインターネットを活用した授業やパソコンやタブレット端末の普及も進んでいる。
また、電子稟議システムが導入されている企業も多く、会議資料等も含め、紙ベースの書類を削減する動きはすっかり定着化しており、個人だけでなく、企業活動の場面でも紙全体の需要については大幅な拡大は見込みにくい状況が続いている。
では、社会全体でペーパーレス化が進み、「紙」は本当に生活の中から消えてしまっているのだろうかというと、そうでもない。すでに、少しだけ触れているが、それは「段ボール」である。
筆者もついつい、某通販サイトで、「カートに入れる」「レジに進む」「注文を確定する」ボタンをクリックしてしまい、1週間のうちに数日は宅配便の配送員さんのお世話になっているが、インターネットショッピングの普及、急拡大にともない、段ボールの需要は年々高まっている。全国段ボール工業組合連合会によれば、2017年も通販・宅配・引っ越し用の段ボールの生産量は前年を5%以上、増えると予測している。
古紙のリサイクルでは、すっかりおなじみの新聞紙より段ボールの価格上昇率が高いことや輸出価格も足元で上昇している等の背景には、国内の事業者と輸出業者の間で段ボール原料確保のための価格競争が激しさを増している状況がある、と推察される。
ペーパーレス社会と通信販売、それぞれ「インターネット」という共通の事象を起点にしていながら、洋紙と段ボールのように「紙」としては同分類にくくられるモノであっても、全く異なる状況が生じている。
しかし、これは「紙」業界だけにとどまることではないだろう。
携帯電話や電気自動車、そして先月先々月と、このコラムで触れた暗号通貨のような新しいモノやサービスが開発され普及することにより、既存のモノやサービス等に様々な影響が出てくることは容易に想像できる。
モノの価格や物量の動き、新しいモノやサービスを単体として注目するだけでなく、新しいモノやサービスに対して、既存のモノがどのような影響を受けるのか、また、それを扱う企業がどういった戦略を持ち、行動していくのか、とった点についても引き続き注目していきたい。
(堀記)