暗号(仮想)通貨と邦銀の取り組み
先月は、暗号(仮想)通貨と企業間決済について、コメントさせていただいた。暗号(仮想)仮想通貨関連のニュースは今月に入っても多いので、先月に続いて暗号(仮想)通貨についてコメントさせていただこうと思う。
9月に入ってからの主要記事の見出しを以下に記す(すべて日本経済新聞)。
・デジタル通貨 中銀に待望論 英中など構想、日本も研究(9月8日付)
・危ういICO(イニシャル・コイン・オファリング)の錬金術(9月9日付)
・仮想通貨、日韓で送金、SBI系、銀行間で実験(同上)
・仮想通貨の利益 雑所得に 損益の相殺認めず(9月12日付)
・仮想通貨取引所閉鎖へ 中国、月内に ビットコイン3割安(9月15日付)
・邦銀連合で仮想通貨 みずほ・ゆうちょ・地銀(9月17日付)
・日本勢合流の枠組み狙う 三菱UFJのデジタル通貨構想(9月22日付)
・仮想通貨「採掘」日本勢も ネット証券続々、中国主導に対抗(9月24日付)
・SBI、仮想通貨発行へ 「Sコイン」低コストで決済(9月28日付)
ビットコイン(bitflyer)の相場は9月2日に56万円以上と過去最高値を更新、9月15日に2017年7月と同水準の安値(30万円)を一時的につけた後、本コラム執筆時点では45万円台に戻している。
たとえて言えば、月初に1ドル112円台だったのが、15日におよそ60円になり、現在は90円台に戻しているといったところだろうか。
ドル、ユーロ、円といった通貨や金、銀、プラチナといった貴金属、その他の商品市況に比べても、ビットコインの相場は荒い値動きを続けている。
値動きの速さや変化の大きさ、中国当局の規制強化、米銀首脳のコメントを含め、ほぼ、連日のように新聞紙上をにぎわせている暗号(仮想)通貨だが、筆者が特に気になったのは、上記17日と22日の記事にある邦銀の取り組みである。
そもそもデジタル通貨は、実質的には既存の通貨との共通点が多い電子マネーと暗号(仮想)通貨の2つに大別されるが、新聞報道によれば、みずほフィナンシャルグループやゆうちょ銀行、数十の地方銀行が設立する新会社は仮想通貨を扱う予定であるのに対し、三菱UFJフィナンシャルグループが発行を検討しているデジタル通貨はどちらの仕組みとするかは不明とのことである。
銀行が持つ3つの基本機能とは、「信用創造」、「金融仲介」、「決済」と言われているが、暗号(仮想)通貨の本質は「銀行」が関与しなくても成立する、この3番目の「決済」機能そのものであると筆者は考えている。
財務諸表を分析し、商売(モノやサービス)と決済(カネ)の動きを押さえながら、お取引先企業の実態を把握し取引方針の判断材料の重要な要素としてきた銀行にとって、「決済」機能そのものが銀行のあずかり知らないところで行われるとしたら、言い換えれば、「決済」機能が有する経済的や機能的な側面だけでなく、「決済」に関わる情報そのものに自らアクセスできなくなるのでは、という危機感の高まりと新たな顧客開拓とビジネスチャンス獲得をどう結び付けるのか、という2つの目的意識が上記の記事の背景にあると考えている。
法人・個人、国内外の全ての取引に関する決済機能が、銀行を経由しない形に全面的に移行するとは思えないし、移行のタイミングや比率については全く予想することができない。現時点では、大半の暗号(仮想)通貨の取引は個人間で行われており、トランザクションの絶対数も決済全体から見れば微々たる比率に過ぎないが、いずれにしても一定量の「決済」については銀行を経由しない日が、近い将来、確実に到来するのではないか。
一方で、その移行のスピードやボリュームを決めるのは、利用者にとって、安心・安全を含めた利便性の高さをどれだけ確保できるかにかかっているのではないか、とも考えており、個人・法人双方にとって利便性が高い、暗号(仮想)通貨インフラが構築されることを期待したい。
筆者自身も「モノ」や「業界」の動きだけでなく、「決済」に関する様々な技術や動向が、事業会社や金融機関を取り巻く環境にどのような影響を与えていくのかといった点について引き続き注目していきたい。
(堀記)