暗号通貨と企業間決済
8月10日の当コラムで弊社の孫が触れたように、仮想通貨の先駆けであるビットコインからビットコインキャッシュが分裂した。
英語ではCryptocurrency、Cryptoは暗号であり、素直に翻訳したら暗号通貨だろうと思う仮想通貨だが、2017年4月から、「資金決済に関する法律」が改正され、仮想通貨は次のとおり、定義付けられた(法2条5項)。
・物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定 の者に対して使用することができ、かつ、不特定のものを相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他のものに電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
・不特定の者を相手方として全号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
定義づけられたとはいえ、現時点では実際に取引している人数もまだ少なく、各種法規制も含め、実態に運用が追いついていない印象が強い。(本稿では「仮想」ではなく「暗号」通貨で以下、統一する。)
暗号通貨は、発行者の明確性や中央集権的な管理システム等の観点から既存の通貨や電子マネーとは異なるものの、上記定義のように実質的な機能は既存の通貨や電子マネーとほぼ同一といってよいだろう。現状では、価格変動が非常に大きいこと、流動性が低いこと、詐欺やマネーロンダリングといった犯罪に利用される可能性等の問題点も指摘されているが、既存の金融システムとの比較した場合、将来性(圧倒的に低い取引コスト、セキュリティの高さ等)から、徐々に市民権を得ていき、将来的には企業間の決済にも広く活用されていくことも十分、予想できる。
企業間の決済といえば、脚光を浴びているものの、現時点では統計データ等が全く整備されていない暗号通貨に対し、伝統的に企業間の決済手段として利用されてきたのは、約束手形や為替手形といった手形類である。手形の交換高(の推移)については、全国銀行協会の資料によれば以下の通りである
1990(平成2)年の4,797兆円をピークに2016年は435兆円とピークの9%程度の水準となっている。これはインターネットバンキング等の普及により(現金)振込がより簡便になったことなどが要因として挙げられるだろう。また、2013年2月から運用が始まった電子記録債権(でんさい)は2017年6月末の残高が約4.8兆円と、運用開始から順調に残高を伸ばしている。ただし、残高そのものは手形交換高の1%程度となっている。手形取引は過去10年程度、ほぼ同水準で推移しているが、近い将来、その一部が暗号通貨での決済に移行する可能性も十分あり得るのではないだろうか。
我々は、事業会社へのインタビューの際、仕入代金や支払代金の決済条件について聴取することが多い。従来の回答は、●日締め、▲日後の現金振り込み、サイト■日の手形決済等が中心だったが、今後はこうした既存の決済条件に加え、暗号通貨の利用状況等についても確認する必要が出てくるかもしれない。また、貸借対照表の勘定科目にも「暗号通貨」という科目が登場する日も近いのではないか。その場合、資産計上に関するルールや評価方法についての議論はどうなるのか、金融機関としては、お取引先の資金フローをどうやって把握したらよいのか等々、興味は尽きない。
今後も「モノ」や「業界」の動きだけでなく、「決済」に関する動きからも目を離さないようにしていきたい。
(堀記)