お知らせ&コラム

2017-07-28 業界動向

EUとASEAN

 7月10日の当コラムで弊社の孫が触れたように、7月5日に日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が大枠で合意したことが伝えられている。彼が「カマンベールなどのチーズがだいぶ安くなることは、多くのチーズ好きにとって朗報となるかもしれない」とコメントしているのには大きく頷いたが、私にとってそれ以上に朗報だったのは、これまで15%か1リットル当たり125円だったワインの関税が即時撤廃になるという合意内容であった。20年くらい前に比べて、リーズナブルでおいしいワインが手に入りやすくなってきているとは感じていたが、さらにお手頃価格になるとは。

 財務省の貿易統計のHP(http://www.customs.go.jp/toukei/suii/html/time_latest.htm)では、日本とEUの貿易量の確認ができる。
 これによれば、2016年のEUからの最大の輸入品目は医薬品(1兆5,505億円)、2位は自動車(9,497億円)となっている。
 今回の合意内容にも含まれていた、自動車の輸出関税(10%、8年目で撤廃)、自動車部品の輸出関税(3~4%前後、貿易額ベースで92.1%の品目で即時撤廃)、エルメスやルイヴィトン等のバッグ類の輸入関税(1,858億円、最高30%の関税を一定期間後に撤廃)に比べると、チーズの輸入額は約400億円、ワインの輸入額は約660億円と経済効果の面では、さほど大きくないのではとの声もあるかもしれないが、身近な食品がより安価に入手できるようになることは個人的には大賛成である。もちろん、私はワインとチーズだけでなく、日本酒や日本酒によく合う豆腐の味噌漬け(チーズに風味が似ている)といった国産品も健康を害さない程度に、いままで以上に、たくさん購入、消費したいと思っている。

 EUとの通商関係も重要だが、それ以上に、我が国の通商問題の未来を考える上で示唆に富む記事が日本経済新聞に掲載されていたので紹介したい。(2017年6月14日付朝刊)
 「東南アに低温物流網」 ―国交省 日本の技術を標準化― というタイトルの記事であるが、これは東南アジア諸国連合(ASEAN)の10カ国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)とともに、肉、魚、生鮮野菜等の商品を低温で運ぶ物流網を現地に構築するもので、保冷から輸送までのルールを標準化して提供する、と記事にはある。

  参考までに2014年時点でのEUとASEAN、日本の人口、GDP、1人当たりのGDPは以下のとおりである。

 (図表1)EU、ASEANと日本の比較

  EU ASEAN 日本
人口 5億820万人 6億2,329万人 1億2,713万人
GDP 16兆2,204億ドル 2兆4,780億ドル 4兆6,015億ドル
1人当たりGDP 37,852ドル 3,976ドル 36,194ドル

(出所)外務省

 上記のとおり、EUは市場的には日本の約4倍の人口とGDPの規模を有する経済圏である。加盟国による差異は若干あるにせよ、圏内全体の人口動態や市場の成熟度といった点からみれば、日本と共通点の多い市場であるといえるのではないだろうか。
 これに対し、ASEANの人口は日本の約5倍であるのに対し、1人当たりのGDPは10分の1程度である。仮に1人当たりのGDPが日本と同水準になった場合、22兆ドルを超え、現在のEUを大きく上回る経済規模となることを考えると、ASEANは非常に魅力的な市場に映る。

  ASEANの現在の1人当たりのGDPは、ちょうど日本の1960年代の水準である。まさに高度成長期の水準であるが、これがかつての日本のように、域内の豊富な労働力人口を活かしながら経済成長できれば、生活スタイルが短期間のうちに劇的に変貌していくことは十分、想定できる。

  その過程の中で、日本では当たり前となっている冷蔵庫や電子レンジ等の一層の普及、冷凍食品や生鮮食品の物流が改善されていけば、日本企業の商機も今より大きくなるのではないだろうか。日本がそうであったように、コンビニエンスストアや外食チェーンも今後、普及が一層、進むだろう。その場合、やはり店舗網だけではなく、物流網も含めて全体的に整備していく必要がある。
 その際、EU圏にくらべ、ASEAN諸国により近接した地域にある日本にとっては、差別化が相対的に図りにくい冷凍食品ではなく、上記の記事にあるように、肉、魚、野菜、果実といった生鮮食品のような定温物流により差別化を図ることができる高付加価値商品を販売するいい機会になるのではないか、と考える。

  また、生鮮食品だけにとどまらず、定温管理が必要な医薬品等についても日本の技術やノウハウにより物流網が改善される可能性は十分あり、そのメリットは計り知れないだろう。食品に止まらず医療分野も含めた物流網が構築・改善されれば、域内経済はより活性化され、直接・間接的に日本国内の多くの企業・業界への波及効果が期待される。

  米国のTPPからの離脱により、米国との通商関係の先行きを見通すことは難しい状況が続いているが、日本は独自のやり方で、日本の良さを世界に発信しつつ、商機につなげる方法を模索し続ける必要があると考える。

(堀記)

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