同業他社比較
特定の企業、特定の業界の調査・分析を行うときに、同業他社比較という観点から調査・分析を行うことは多いのですが、これからはもう少し視野を広げなければならないということを、あらためて感じさせる報道がありました。
新聞報道等によれば、トヨタ自動車の豊田章男社長が2017年3月期の提示株主総会で株主から出た、中長期的な競争力に関する質問に対して、「80年前には織機メーカーである豊田自動織機(トヨタの前身)が自動車を作るとはだれも予想していなかったが、今、まさに同じことが起きている。テスラ(米国の電気自動車メーカー)や中国の自動車ベンチャー、グーグルやアップル、アマゾンなどの異業種も参入してきた。過去はゼネラルモーターズ(GM)がずっと世界ナンバーワンでトヨタは存在していなかった。今まさに80年前と同じことが起きている。競争相手やルールが大きく変わろうとしている」と述べました。(各種報道から筆者まとめ)
実際、現在生産される自動車は従来のレシプロエンジン(内燃機関)だけでなく、ハイブリッドカーや電気自動車のようにモーターを動力源(の一部)とするものが急速にその数を増やしています。
また、機能面でも1リットルのガソリンで30キロメートル以上走行可能な車種が多数発売されており、排気量は小さくしながら出力を増加させるダウンサイジングのような省エネルギー性の追求といった従来型の技術革新も進んでいますが、それだけにはとどまっていません。
カーナビゲーションシステムやその延長線上にある各種情報機器、安全装置の技術発展をみると、自動車と言ってよいのか、むしろエンジンがついた電子機器ではないのかと感じるくらいです。電気自動車や燃料電池自動車は自動車の形をした電気製品そのものではないかとも思えます。
さらには、自動運転システムの技術開発と物流業界との関連、一見すると売上には逆効果となる可能性のあるカーシェアリングやウーバーのような自動車配車サービスへの大型投資等々、優れたデザインを持ち、基本性能が高い自動車を製造するだけではなく、これまでの自動車業界からは想像もつかない分野との融合、新たなサービスの提供を模索する動きが自動車業界に出てきていることを実感します。
こうした、新たな技術革新、異なる分野との融合等により激変する環境下では、企業分析や業界分析の場でも、国内同業他社として日産自動車や本田技研工業、マツダ、スバルといった企業、世界的にはGM、フォルクスワーゲンとの生産台数や販売台数の比較、(地域別の)売上高や利益の額や比率、資本効率をはじめとする効率性の調査・分析だけでは過去の比較はできても今後の将来性については判断することは難しいでしょう。
従来のように自動車メーカー、部品メーカー等との垂直関係や国内外の外部環境、競合関係だけを押さえておけば何とかなる時代は過ぎ去りつつあるとの前提に立つとともに、自動車業界のこうした潮流が他の業界にも広がっていく、及んでいくのではないかとの仮説を持つことが重要ではないでしょうか。
マイケル・ポーター教授の古典的名著「競争の戦略」(ダイヤモンド社)で触れられている5つの競争要因(ファイブフォース)の中でも、特に、新規参入業者の脅威、代替品の脅威について従来以上に考慮し、より多面的な視点を持ちながら、インタビューや調査・分析の場で実践していく必要があると考えます。
(堀記)